top of page

2023年3月19日 日曜日

高山羽根子(たかやま・はねこ)

1975年、富山県生まれの小説家。

2009年、「うどん キツネつきの」で第1回創元SF短編賞の佳作を受賞し、デビュー。

2014年、短編集『うどん キツネつきの』(創元日本SF叢書)を刊行。

2016年、「太陽の側の島」で第2回林芙美子文学賞の大賞を受賞。

2018年、短編集『オブジェクタム』(朝日新聞出版)を刊行。同年、豊崎由美が単独で決める「鮭児文学賞」(北海道新聞プレゼンツ)を中篇「オブジェクタム」で受賞。「オブジェクタム」は第39回日本SF大賞にノミネートされている(結果発表は2月24日)。

2019年、「居た場所」で第160回芥川賞候補、「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」で第161回芥川賞候補に挙がる。

2020年、「首里の馬」で第163回芥川賞を受賞、同作は第33回三島由紀夫賞の候補にも挙げられる。『暗闇にレンズ』(東京創元社)を刊行。

2022年、酉島伝法、倉田タカシとの共著『旅書簡集ゆきあってしあさって』(東京創元社)を刊行。

2023年1月、『パレードのシステム』(講談社)を刊行。

 

高山羽根子さんを本の場所にお招きしたのが、ちょうど4年前。芥川賞を受賞する前年でした。その時、わたしは「書かない作家は素敵だ。台詞で登場人物の気持ちを何もかも明かさない、状況説明を細かくしない。書かない作家の作品を読むと、どんどん想像がふくらむ。書かない作家の作品について読んだ人と話をすると、思わぬ発見がある。書かない作家の作品は、だから読んだ人の数だけ存在する」と書き、そんな作家の一人が高山さんだと述べました。

「首里の馬」で芥川賞を受賞して以降もその印象は変わっていませんが、高山さんには「書きすぎない」という以外にもうひとつ美点があることをよく伝えるのが、書き下ろし長篇『暗闇にレンズ』ではないかと思うんです。

これは、映画と映像と戦争にまつわる歴史を虚実こもごもに描いた偽史ものにして、120余年にも及ぶその時間をレンズを覗くことで駆け抜けた女性たちの物語です。

街中に設置された監視カメラをかいくぐり、携帯端末の小さなレンズで世界を切り取って、その動画をポータルサイトにアップしている女子高生の〈私〉と彼女の物語「SideA」は現代の話。一方「SideB」のストーリーの時間線は長く延びています。

まず登場するのは、1897年、横浜の娼館・夢幻楼の女将である母に厳しく育てられている少女・照。彼女は長じて科学と機械学を修め、単身、パリの撮影スタジオで働くことになります。その照が幼なじみと結婚し、引き取って育てることになるのが夢幻楼の娼妓の遺児・未知江。非常に無口で変わっているため学校には行かず、自宅で照から教育を授けられた彼女は、やがて語学力を買われ、記録映画を製作する撮影所に入り、世界各地を飛び回ることになるんです。

その未知江がドイツ人男性と結婚し、男女の双子を出産。幼い頃の未知江とそっくりな女児・ひかりが主人公の座を引き継いでいき、成長した彼女はアメリカ最大のアニメーションスタジオで撮影技術を学び、そこでアジア系アメリカ人のユンと知り合って、後年、2人は独立の機運高まるベトナムはサイゴン(当時)で再会。結婚し、ひかりの双子の兄の遺児・ルミと3人で暮らすようになります。

このBの物語には、映像が兵器として使用されるようになった十九世紀末から現代へと至る戦争偽史のエピソードも挿入。やがて合流するAとBの物語に深く関与していくんです。教育や娯楽のためになる一方で、戦争や弾圧の道具としても用いられてきた映像の歴史を、主に女性の視点から洗い直す。SF出身にして優れた純文学作品に与えられる芥川賞も受賞した、高山羽根子の真骨頂が味わえる超絶面白ジャンル混交小説になっています。

そう、書きすぎない小説家・高山さんのもうひとつの美点である武器は、さまざまなジャンルを横断できる多チャンネル・ミキシング力なんです。

1月29日に刊行されたばかりの長篇『パレードのシステム』、わたしもまだ読んでいないのですが、版元からの紹介によれば「鮮明で美しく、静謐かつ余韻に満ちたレクイエム、芥川賞作家の新境地。人生はパレード、荘厳な魂の旅路。台湾と日本、統治と戦争の歴史に及ぶ記録と記憶の軌跡――」とのこと。日本統治下にあった台湾と、現代の台湾が主な舞台になると思われるこの最新作で、今度はどんな美点を見せてくれるのか。高山さんの自作朗読の声に耳を澄ませて、期待をふくらませる90分になりそうです。

(文責・豊崎由美)

開催日時

2023年3月19日 日曜日 18時00分開演(17時45分開場)

安全を考慮し、ご参加者を20名(申し込み順)といたします。

場所はいつもの表参道の会場ではありません。密回避のため、広い会場を予定しています。

地下鉄表参道駅から5分の場所です。お申し込みの方には別途お知らせします。

感染状況の推移によっては、延期の可能性もあります。

 

youtube配信はありません。

bottom of page