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1月30日に開催予定の「柴崎友香朗読会」を延期します。
新型コロナ感染状況が改善しましたら開催
します。お待ちください。

柴崎友香(しばさき・ともか)

 

1999年、短編「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」が「文藝別冊」に掲載され、小説家デビュー。同短編を含む『きょうのできごと』を2000年に刊行、2003年に映画化。
2006年の『その街の今は』で第24回咲くやこの花賞の文藝その他部門、第23回織田作之助賞、第57回芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。
2010年、 『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞を受賞。
2014年、『春の庭』で第151回芥川龍之介賞を受賞。



 雨の日に、体育館と旧館をつなぐ渡り廊下そばの植え込みに真っ白いきのこを発見したばかりか、〈なにか青い小さなもの〉が視界の隅で動いたことに気づいた一年一組一番と二組一番。
 結婚し、2人の子供をもうけた男が、25年前に佐藤という女と過ごしたアパートを訪ねると、窓辺に彼女そっくりの女を見つけてしまうという不思議。
 急行列車が止まらない小さな駅を眺めながら、急行に乗って行ける〈どっか〉への憧れと苛立ちを募らせる中学生男子たちのその後。
 台風が来ると増水で決壊しそうになる土手の、今や誰も知らない百年前、そのずっと前の光景。
 同じ時間にアパートの前の路地を通る猫に気づいた住人が、その後を追っていって見つけた空き家にかつて住んでいた家族の話。
 横田が運転する車で事故に遭った水島が、その後に経験する横田をめぐる不可解な出来事。
 子供の頃に見たドラマで探偵が住んでいたところに憧れて、屋上にある部屋を探して移り住んだ山本が、両親から相続した二階建ての家に作る広いベランダ。
 雪が積もらない町に大雪が降り続き、隣のアパートに住む同級生が行方不明になったという出来事を思い返す、寒い国の寒い街の大学に入った四階の子供。
 羊を飼っていた祖母の祖父が、毛糸を紡ぐ無口な妻の真の姿を知って驚き喜ぶ話を祖母から聞かされて、彼らが住んでいたという外国にある石積みの家を訪ねてみようと思う〈わたし〉。
 解体が決まった建物の奥に発見された部屋と、そこに残されていた原稿を書いた人物の過去。
 といった27の掌篇と、その合間に挟まれたそれぞれ3話から成る「娘の話」「ファミリーツリー」が収録されているのが、柴崎友香さんの最新刊『百年と一日』です。本当はわたしの拙い粗筋など必要ないのは、本を開けば一目瞭然。各作品にはタイトルではなく、19世紀までは好んで使われていた「次章で展開する話の概略を冒頭で紹介する」テクニックを思わせる、作者自身による大旨が載っているからです。そうした種明かし的な概略に目を通してもなお、各篇を読むと新鮮な読み心地と「そうくるか」という驚きが生まれる。
いろんな場所、いろんな時代に生きる、いろんな人々が過ごす百年にも相当する一日の積み重ね。わたしがこの本にサブタイトルをつけるとしたら「ぼくらはみんな生きている」です。唯一無二の自分と同じく、それぞれの比類なき人生を生きる人々へと思いを至らせたくなる作品たちなんです。
潔い文章操作によって時間を巧みに操ることで、柴崎さんはとても短い物語の中に「永遠」といっても過言ではない長い時を封じ込め、読む「ぼくら」の心の中でその時を解き放ちます。今ここに生きていることの歓びを、この本の中の物語たちが教えてくれる。読後、『百年と一日』というタイトルの意味を自分なりに考えたくなる。そんな、短いのに長い、深い余韻を残す27+6篇なのです。
デビュー20周年を経た作家の新境地ともいうべきこの作品集を朗読し、これらの物語たちがどんな風に生まれたのかをお話いただく1月30日。いつもとは違う広いスペースで、間隔をゆったりとった席を用意していますので、皆さん、是非、柴崎さんの肉声に触れてください。

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