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2023年1月28日 土曜日

山下 澄人(やました すみと)

1966年、兵庫県神戸市生まれ。倉本聰の富良野塾2期生。

1996年より劇団FICTIONを主宰。

2012年、『緑のさる』で小説家デビュー。同年、『ギッちょん』で第149回芥川賞候補になり、『緑のさる』で第34回野間文芸新人賞を受賞。

2013年、『砂漠ダンス』で第149回芥川賞候補に、同年『コルバトントリ』で第150回芥川賞候補に挙がる。

2016年、『鳥の会議』で、第20回三島由紀夫賞にノミネートされる。

2017年、『しんせかい』で第156回芥川賞を受賞。

2017年に『ほしのこ』、2020年に『小鳥、来る』『月の客』、2022年に『君たちはしかし再び来い』を刊行。

 

 “いつのまにか”どこかにいて、“なぜか”としか説明しようのないヘンテコな出来事に遭遇する主人公〈わたし〉のいる世界では、実際に起きたことと考えたことや、現実と夢や、自分と誰かが地続きになっていて、読んでいるうちに見当識を失いそうになってしまう。山下澄人はそんな異形の小説『緑のさる』の後ろから、ある日のっそり姿を現したのだ。

 ……今から6年前、山下さんに初めて本の場所にご登壇いただいた時の紹介文を、わたしはそんな風に始めたのだった。その翌年、芥川賞を受賞して以降も、山下さんは変わらず、理屈で読んでは“わからない”作品を発表し続けている。

 一人称で書いているかぎり、語り手が知り得ないことは書いてはいけない、語り手は物語世界の中に遍在してはいけないといった、(誰が決めたのかは知らないけれど)通例とされているルールから、小説を自由にする。自分と他者を隔てるアイデンティティや思考や体験の境界から人間を自由にする。大きな文学賞を受賞しようが、山下さんはこの書き方を変えてはいない。いや、最新刊にあたる連作短篇集『君たちはしかし再び来い』(文藝春秋)を読むと、融通無碍の度合いはさらに進化しているといえそうだ。

 S字結腸憩室穿孔による立っていられないほどの激痛で病院に駆け込み、緊急手術を受けて装着することになった人工肛門。外に出した臓器を戻すために受けた手術。2年後に、今度は胃潰瘍で救急搬送。その間に飼い猫ごえもんもまた開腹手術を受けることになり、世界は新型コロナウイルスというパンデミックに襲われて——という3年間の出来事を中心に描かれた10篇が収録されている。

 ここで山下さんが試みているのが「異文(ヴァリアント)」だ。

〈カフカ全集、わたしが読んでいたのは『決定版カフカ全集』新潮社、その七巻、日記だ、その最後に『異文(ヴァリアント)』と題された、カフカがそう題したのかのちの誰かが題したのかわからない、そう題された短いものがあって、わたしはそれを何度も読むのだけれど何度読んでも何の話かわからず、わからないから何度も読める。〉

 同じことを幾度も形を変えて書く。山下さんはこの連作短篇集をそのようにして提出している。今、わたしは最後を「完成させている」という言葉で締めようとしていたのだけれど、異文が完成するはずがない、異文は永遠に未完成だということに気づき、「提出している」に変えた。

 幾度も死にかけ、幾度も生還し、幾度も同じ場面に身を置き、幾度も同じ場面から立ち去る。〈わたし〉はヴァリエーション違いの〈わたし〉と出会い、これまでの作品でもそうだったように〈わたし〉は輪郭を失っていき、何にでもなる。山にすらなってしまう。未完成が宿命づけられている異文の中で、〈わたし〉もその父母も友人も生きたり死んだり、時空を超えたり、何でもありの姿を見せる。

 正直、わからない。わかった気にならない。でも、〈わからないから何度も読める。〉

 山下異文に接し続けるうちに、読んでいるこちらの輪郭もまた溶けていってしまう。不安なような気持ちがいいような恐いような、もう死んでしまっているかのような、そんな他の小説では味わえない感覚をもたらす作品を、演劇人でもある作者本人が朗読してくれる。この得がたい90分で、皆さんも一緒に輪郭を失ってみませんか?(文責・豊崎由美)

開催日時

2023年1月28日 土曜日 18時00分開演(17時45分開場)

安全を考慮し、ご参加者を20名(申し込み順)といたします。

場所はいつもの表参道の会場ではありません。密回避のため、広い会場を予定しています。

地下鉄表参道駅から5分の場所です。お申し込みの方には別途お知らせします。

感染状況の推移によっては、延期の可能性もあります。

 

youtube配信はありません。

お知らせ

多数の予約お申込みをいただきました。

予約受付を締め切らせていただきます。

ありがとうございました。

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