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2019年12月17日(火)

 写真家・十文字美信さん(72)の作品と、江戸時代の絵師の作品を組み合わせて新しい一つの作品にする。そんな大胆な創作活動に、十文字さんと、江戸絵画収集家の加納節雄さん(67)が取り組んでいる。

 4 月下旬、十文字さんの写真と、曾我蕭白(1730 ‒ 81年)の絵画の実物を一体の作品として額装した3点が、「I WEREYOU」と題して発表された。

 その一つ、十文字さんによる「残闕」と、蕭白の「鷹兎図」を組み合わせた作品では、蕭白が描いた鷹の視線の先に、十文字さんが撮った鎌倉時代末期の金剛力士吽像の残闕(顔や手足のない部分像)。鷹の様子は、正体不明の像が、単なる物体ではなく何かただならぬ存在であることを示しているように思える。そこにいるのは何か。鷹の次の動きはー。両者が対峙することによって開いた、底知れない想像の扉の向こうへ誘われていくような感覚を覚える。

 気づけば、その写真、その絵画の境目は溶けている。蕭白の絵と、200年以上後に撮影された十文字さんの写真は、時を超えて結びつき、拮抗しながら互いに命を吹き込んでいるようでもある。

 「自分が収集した絵と十文字さんの写真を組み合わせて新しい世界を表現したい」と提案したのは加納さんだったという。2015年のことだ。だが絵画にくらべれば、写真の歴史は浅い。十文字さんは「くっつけて一つの作品にしてしまおうという大胆不敵な発想に写真がたえられるか、見てみないとわからないというのが正直なところでした」と振り返る。

 一方、加納さんは、十文字さんの作品と出会って、「日本画が求めているものがそこにあると思った」と話す。それは、誰にでも見えるものをそのまま写すのではなく、たとえば魂や気配のように、見えないものをとらえること。「だから合わせ鏡のようにぴたっと合うと僕は思った」

 十文字さんは1971年のデビュー以来、見る者の想像力を重視する作品を撮り続けてきた。キャリアの最初期、74年にニューヨーク近代美術館に招待出品され、海外でも評価を集めた「UNTITLED」(首なし)に写るのは、被写体となる人物の首から下。

 最もその人らしさを感じさせるはずの顔はフレームの外だ。「写っていることだけが大事なのではない。その外のことを想像してください。それは僕の一貫した考え方。今回、絵と組み合わせることによって、そのことがまた一つ、明確になった。だから自分にとってはすごくやりがいがあると思っているんです」

 組み合わせは、2人でやり取りを重ねて決める。写真は新たに撮影するのではなく、これまでの十文字作品の中から絵に合うものを選ぶ。相手の絵を見ているうちに、十文字さんの記憶の中から一つの写真映像が浮かび上がってくる瞬間があるのだという。まるで「絵から写真に乗りかわる感覚」で。

 この4年間で、額装した3作のほかにも、河鍋暁斎(1831 ‒ 89年)、円山応挙(1733 ‒95年)など、さまざまな絵師の作品との組み合わせが決まった。その数は70点を超える。

 組み合わせた作品の一つに、松花堂昭乗(1584 ‒ 1639年)が描いた猫の絵に、後年、尾形光琳(1658 ‒ 1716年)が蝶を加筆した「猫に蝶図」がある。

 「我々はある意味、これに近いことをやろうとしている」と加納さんは話す。昭乗の絵は、光琳の加筆で新たな作品になった。

 それに十文字さんの写真がつながればまた新しくなる。さらに200年後のアーティストが「僕も加納さんも知らないメディアを使った作品をくっつけて、一つの作品だと言ってくれたら面白い」と十文字さん。「それが僕自身、これをやろうと決心したきっかけです」

 過去と現在、そして未来をもはらんで、未詳の領域をひらく。秋には作品を広く公開したい意向だ。

2019年6月6日(木)読売新聞朝刊

読売新聞東京本社 編集局文化部記者

恩田泰子

 作品数は記事掲載当時のもの。現在、額装された新たな大作を含め、組み合わせはおよそ100点にのぼる。

開催日時

2019年12月17日 火曜日 19時開演(18時30分開場)

ゲストに編集工学者・松岡正剛氏をお迎えします。

お知らせ

多数の予約お申込みをいただきました。

予約受付を締め切らせていただきます。

ありがとうございました。

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