
「文字渦」
円城塔朗読会
2018年7月21日(土)
円城塔(えんじょう・とう)
1972年、北海道生まれ。
2006年に第7回小松左京賞に応募した『Self-Reference ENGINE』が最終候補作となるが落選。同作を早川書房に持ち込みしてみたところ、2007年に刊行されてデビュー。
2007年、『オブ・ザ・ベースボール』で第104回文學界新人賞を受賞し、同作品で第137回芥川賞候補に。
2010年、『烏有此譚』で第32回野間文芸新人賞を受賞。
2011年、『これはペンです』で第3回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。
2012年、『道化師の蝶』で第146回芥川賞を受賞。同年、故伊藤計劃が遺した未完成原稿を引き継いで完成させた『屍者の帝国』で第31回日本SF大賞特別賞、第44回星雲賞日本長編部門を受賞。
2013年『Self-Reference ENGINE』(英語訳:Terry Gallagher)がフィリップ・K・ディック賞にノミネートされる(日本語からの英訳作品としては2010年の伊藤計劃に続き2人目のノミネート)。2014年4月19日、同賞の次点に当たる特別賞に選ばれた。
2017年、『文字渦』で第43回川端康成文学賞を受賞。
だいぶ前の話なので、今はちがうかもしれないが、円城塔氏から、自分は作品を書く前に、まずは図形を用いて設計すると聞いて驚くと同時に、反面、得心したことを覚えている。多くの作家が文章を使って大まかな見取図を考えるところを、図形。東北大学を卒業後、東京大学大学院で博士の学位を取得し、複雑系生命論に関する著作を持つ研究者・金子邦彦の指導を仰いだという、これまでの日本の文壇には存在したことがない異色の経歴を持つ小説家の登場に畏怖を覚えたのを、昨日のことのように思い出す。まさに、円城塔は日本文学界の「アンファンテリブル」として現れたのだ。
年に一度のペースで、なぜか知らねど空から人が降ってくる町ファウルズで、レスキュー隊員であるはずなのに、なぜか知らねどユニフォームとバットを支給され、空から降ってくる人々を、なぜか知らねど打ち返すという訓練に励む〈俺〉──という設定の『オブ・ザ・ベースボール』以来、凡人のわたしは、円城作品を読んで「わかった!」という気になれたことが一度もない。にもかかわらず「つまらない!」と思ったことも一度もない。
決して開き直るわけではないのだけれど、円城作品(ひいては世界)は、わたしに「わかる」ことなどで出来上がってはおらず、無論、「わかってほしい」「わかるだろう」とも思っちゃいないのであり、わたしはその「わからなさ」こそを深く理解しようと努め、「わからない状態」にある自分と対峙し、その境遇を楽しめばよいのである。センス・オブ・ワンダーとは、本来そういう状態を意味するのではないか。決して開き直っているつもりではなく。
そんな円城氏の最新の連作が、中島敦の『文字禍』を連想させる「文字渦」シリーズだ。秦の始皇帝が自分のために築いた陵墓を囲むように配置された陪葬坑。そこに収められた陶俑づくりの名人が、始皇帝専属の陶工となり、難題を与えられたことがきっかけで生まれた文字にまつわる物語になっている。
現代に生きるわたしたちが準拠する「Unicode」という“帝国”に挑む文字たちの反乱を予感させる作品で、ゆえに、古代には使われていたのに今では辞書からも排除されてしまったような漢字や、教養なき身では作者が作った文字なのか本当に存在するのかどうか判じがたいような、見たこともない漢字が頻出。このシリーズが完結して1冊の本になった暁には書評したいと思いながらも、Unicode社会でどうやって紹介すればいいのか、そもそもできるのか、今から頭を悩ませている次第だ。
さて、そのような作品を、円城塔氏がどうやって朗読してくれるのだろう。ワクワクしかないではないか。(文責・豊崎由美)
美術のおまけ

開催日時
2018年7月21日 土曜日 18時開演(17時開場)
ゆっくり展示美術をご覧いただけるよう、1時間前の開場です。
お知らせ
多数の予約お申込みをいただきました。
予約受付を締め切らせていただきます。
ありがとうございました。