
本の場所・番外編
礫翔 + 吉田拓也
「月光礼讃」
2018年1月23日(火)- 2月2日(金)
11時 - 19時


これまで、箔は「引き立て」の意匠であった。着物や帯を織り成す金糸は生地に輝きをもたらし、屏風や襖の下地や縁取りの金雲霧は絵図を引き立てる。そんな工芸界の名脇役である箔を、礫翔は主役として表舞台に引き出す。本展覧会のテーマ 月光礼讃 は、その意思表明である。箔を下地から絵図へ、舞台裏から表舞台へと引き出し、箔の質感や表情、つまり箔面(はくおもて)を存分に堪能しようではないかという宣言なのだ。
『陰翳礼讃』の著者、谷崎潤一郎は、薄暗い室内に立つ金屏風を地平に沈む太陽が残す最後の照光に例え、その沈痛な美しさを讃えた。鏡が古来より太陽や月を象徴してきたように、天体の光を映しこむ金属は神性を宿すと信じられてきた。やはり礫翔もまた箔を天体に見立てる。光に透け、吹けば舞い上がり、紙や布に定着させなければ崩れ散る程の脆弱な存在でありながら、見る者を神的な無限の広がりの中に引き込む煌めきをもつ。箔を深く極めてきた礫翔だからこそ表出させることができる箔の魅力がそこにある。
裕人礫翔。
礫翔略歴
1962年、京都・西陣に生まれる。経済産業省認定・伝統工芸士。
父であり京都市伝統産業技術功労者の号を持つ西山治作に師事。箔工芸技術を学ぶ。
父から受け継いだ、伝統的な技法・技術の習得に留まらず、箔工芸で表現出来ることの幅を広げるためや貴重な技術の継承を目指して国外、国内において積極的な活動を展開する。
その一環として様々なジャンルのデザイナーやアーティストとの共同制作を行い、パリ、ニューヨーク、香港、上海、クウェート などで活躍。京都国立博物館、名古屋マリオットアソシアホテル等で、文物の修復やインテリア装飾など幅広い創作活動を展開する。2002年独自のブランド「裕人礫翔」を設立。自己の創作活動を本格化。
一方、文化財保存を目的として進められているデジタルアーカイブ制作事業に参画し、箔工芸士の誰もが成し得なかった再現手法を独自の理論と経験をもとに完成させた。400年に及ぶ歳月の経過を再現できるその手法は、金属箔による装飾が施された古画の複製方法として特許を取得。貴重な文化財の保護と活用に大きく貢献している。06年作、国宝「風神雷神図屏風」の高精細複製は特に有名で、京都の建仁寺へ奉納。また、南禅寺、妙心寺、相国寺、随心院、二条城、名古屋城等に収められた障壁画の複製に注力。国内だけではなく、シアトル美術館、メトロポリタン美術館等の海外に所蔵される作品の複製プロジェクトにも協力。琳派や狩野派による屏風、襖絵を京都に里帰りさせる。これら文化複製の質の高さや文化的価値、貢献が認められて「京版画」として商標登録されている。現在、裕人礫翔の功績と活躍は、日本の優れた文化や芸術の象徴として世界に誇るものとなっている。西陣・箔工芸の伝統を重んじながらも、新しい発想で独自の世界を創造し、その素晴らしさを世界に発信し続ける彼のチャレンジ精神は、後継者育成の面からも周囲に刺激を与え続けている。