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北野勇作 朗読会

2017年11月18日(土)

北野勇作(きたのゆうさく)

1962年、兵庫県生まれの小説家、落語作家、役者。現在は大阪在住。

「SFマガジン」や、「SFアドベンチャー」誌上の「森下一仁のショートノベル塾」などへの投稿を経たのち、1992年、『昔、火星があった場所』で第4回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞し、作家デビューを果たす。

同年、落語台本「天動説」で第1回桂雀三郎落語〈やぐら杯〉最優秀賞受賞。

2001年、『かめくん』で第22回日本SF大賞を受賞。

主な著書に『どーなつ』(ハヤカワ文庫)、『ハグルマ』(角川ホラー文庫)、『北野勇作どうぶつ図鑑』(ハヤカワ文庫)、『空貘』(早川書房)、『どろんころんど』(福音館書店)、『きつねのつき』(河出書房新社)など。

 思い出もなく、自分が作られた目的すら忘れてしまったカメ型ヒューマノイドのレプリカメを主人公にした、第22回日本SF大賞受賞作『かめくん』。その女の子バージョンともいうべき、ヒトがいなくなってしまった世界のカフェでかいがいしく働く、真っ赤なリボンを頭につけたレプリカメが可愛い『カメリ』。それぞれ独立して読めながらも、各作品が語り手〈おれ〉の記憶のエピソードを通じてリンクし合う10の物語によって、ないことによってドーナツをドーナツたらしめているあの穴のような、記憶の欠落の意味をあぶり出す『どーなつ』。

 などなど、北野勇作の小説はハードSFや哲学的な問いをバックグラウンドにしながら、読んでいて「難しい」と思わせられることがないのが最大の美点と、トヨザキは思います。片桐はいりや銀粉蝶を輩出した劇団「ブリキの自発団」の作・演出を担当していた生田萬に「過去はいつも新しく、未来は不思議に懐かしい」という名言がありますが、北野SFはまさしく、それ。

 ハイテクの未来を舞台にしながらも、どこか昭和の匂いや下町の雰囲気をまとった世界観が特徴的で、色合いでいえばいかにも未来っぽい銀色ではなくセピア色、かもす感情は侘びしさや切なさや寂しさ。そこかしこで生まれる笑いも、皮肉まじりのシニカルなそれではなく、ペーソス含みの夕焼け色のユーモア。世界という大きな容れ物が描かれているのに、北野作品を読むと、日々の生活がもたらすささいな幸せへの愛おしさで胸が満たされるんです。

 最新刊の長篇『大怪獣記』は、ある日、小説家の〈私〉が、ミノと名乗る映画監督から、これから撮るという怪獣映画の小説化を依頼されるというシークエンスから始まります。映画の舞台は〈私〉が妻と暮らすこの町で、実際の撮影もここで行うと言うミノ。途中までできているシナリオを受け取るために、〈私〉はミノに連れられ、なぜか豆腐屋に連れて行かれます。そこにあったのは白濁した液体で満たされている四畳半くらいはありそうな大きな木製の桶。やがて中からとんでもないクリーチャーが現れ、頭から呑まれてしまった〈私〉は──。

 と、ここまでが全7章のうちの1章分で、物語のほんのとば口にすぎず、〈私〉は次から次へと、不思議だったり不気味だったり滑稽だったりする出来事に翻弄され続けるんです。

 〈この地域──赤虫──には古くから人面と呼ばれる技術が伝えられていて、そのための工場がこの町にはたくさんあった。それで、赤虫の中でもこのあたりは「人面町」と呼ばれていた〉こと。この町に流れついた経緯の記憶がおぼろげな〈私〉。撮影が進むにつれ、現在の町から過去の町へとさまよいこんでしまう〈私〉の後ろについて、この奇々怪々な物語世界を徘徊することになるわたしたち読者は、やがて町の禍々しい来歴を知ることになります。

 怪獣と、ラヴクラフトが生みだした恐怖神話「クトゥルフ」を愛する北野勇作は、妄想力のリミッターを解除して両者を結び合わせ、「シュレディンガーの猫」理論を援用した新しくて懐かしい下町怪獣小説を完成させたのです。

 そうした唯一無二の作風によって熱心な読者を獲得してきた北野さんですが、役者として舞台に立つこともあり、9月には大阪を中心に活動している劇団・超人予備校の『木の葉オンザヘッド』に出演。そんな才人にして怪人の自作朗読を生で聴くことができる、今回は絶好の機会です。是非、南青山まで足をお運びください。(文責・豊﨑由美)

​美術のおまけ

開催日時

2017年11月18日 土曜日 18時開演(17時開場)

ゆっくり展示美術をご覧いただけるよう、1時間前の開場です。

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