
山下澄人「壁抜けの谷」朗読会
2016.9.17(土)

山下 澄人
1966年、兵庫県神戸市生まれ。
倉本聰の富良野塾2期生。
1996年より劇団FICTIONを主宰。
2012年、『緑のさる』で小説家デビュー。同年、『ギッちょん』で第147回芥川賞候補になり、『緑のさる』で第34回野間文芸新人賞を受賞。 2013年、『砂漠ダンス』で第149回芥川賞候補に、同年『コルバトントリ』で第150回芥川賞候補に挙がる。
2016年、『鳥の会議』で、第29回三島由紀夫賞にノミネートされる。
“いつのまにか”どこかにいて、“なぜか”としか説明しようのないヘンテコな出来事に遭遇する主人公〈わたし〉のいる世界では、
実際に起きたことと考えたことや、現実と夢や、自分と誰かが地続きになっていて、読んでいるうちに見当識を失いそうになってしまう。
山下澄人はそんな異形の小説『緑のさる』の後ろから、ある日のっそり姿を現したのだ。
語り手の7歳から62歳までの人生を、ひとつの章の中にさまざまな年齢の〈わたし〉を混在させて描く中、
足が不自由だった友人との思い出を融通無碍なタッチで織りこんでいく『ギッちょん』。
主人公が自分以外の人物の記憶や視点を共有するという独自の一人称複数視点ともいうべきスタイルを確立した『砂漠ダンス』。
母を亡くし、父は病院で意識不明におちいっているため、顔の半分にあざがある優しいおばさんと暮らしている〈ぼく〉の体験の中に
父母との思い出を織りこんだパートと、子供のかたちをしている父と母、それぞれの身に起きた〈ぼく〉には知りようのない出来事が
語られるパートによって成立している『コルバトントリ』。
「ぼく」、神永、三上、長田、仲のいい中学生4人のケンカ上等な日々を十八番の自在な語り口で描いて、
胸が痛くなるラストに心を持っていかれる山下版『スタンド・バイ・ミー』と呼びたい『鳥の会議』。
一人称で書いているかぎり、語り手が知り得ないことは書いてはいけない、語り手は物語世界の中で遍在してはいけないといった
通例とされている縛りから、一人称小説を自由にする。
自分と他者を隔てるアイデンティティや思考や体験の境界から人間を自由にする。
私見にすぎませんが、山下澄人はそうした難しい試みと取り組み続けている小説家のように思えるのです。
読んでいるうちに、自分の輪郭もまた溶けていってしまう。不安なような気持ちがいいような、そんな感覚をもたらす山下作品を、
演劇人でもある作者本人が朗読してくれる。
この機会にわくわくしているのは、わたしだけではないはずです。(文責・豊崎由美)
美術のおまけ

開催日時
2016年9月17日 土曜日 18時開演(17時開場)
ゆっくり展示美術をご覧いただけるよう、1時間前の開場です。
お知らせ
山下澄人「壁抜けの谷」朗読会、多数の予約お申込みをいただきました。予約受付を締め切らせていただきます。
ありがとうございました。
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