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2022年11月5日 土曜日

滝口悠生(たきぐち・ゆうしょう)

1982年10月18日生まれ。

2011年 『楽器』で第43回新潮新人賞を受賞して小説家デビュー。

2015年 『愛と人生』で第37回野間文芸新人賞を受賞。

2016年 『死んでいない者』で第154回芥川龍之介賞を受賞。

2018年 アイオワ大学のIWP(International Writing Program)に参加。

2019年 アイオワ滞在中の記録を『やがて忘れる過程の途中(アイオワ日記)』として発表。

 

空間と時間を旅する作家が、滝口悠生です。

2016年8月に、滝口さんを初めて「本の場所」にお招きした時の紹介文に、わたしはそう記しました。最新作『水平線』を読んで、その意を強くしています。『水平線』は、空間と時間を融通無碍の筆致で行き来することができる滝口悠生という作家の、現時点における最高傑作を断言できる長篇小説だからです。

 

 両親の離婚によって名字を違える2歳差の兄妹、横多平と三森来未。『水平線』は、この2人が経験する時空を超えた不思議な出来事の数々を通して、太平洋戦争末期に激戦地となった硫黄島に生きた人々の姿を今に蘇らせます。

 東京オリンピック開催で盛り上がっている2020年夏。祖母の妹で、1968年の秋に蒸発して行方も生死も定かではない八木皆子からの〈おーい、横多くん〉から始まるメールに誘われるように、小笠原諸島の父島を訪れた平。

 新型コロナウイルスの蔓延によって、東京オリンピックが延期になった2020年夏。祖父の末の弟で、1944年に硫黄島で亡くなった三森忍から〈ああもしもし、くるめちゃん?〉と電話がかかってくるようになった来未(くるみ)。

 1944年、硫黄島を対アメリカ戦局において要塞化するため、内地に強制疎開させられた硫黄島の住民たち。終戦後はアメリカの施政下に置かれ、1968年に日本に返還されたものの、今に至るまで元住民の帰島は許されていません。平と来未の祖父・和美と祖母・イクは疎開組だったのですが、和美の弟である達身と忍は軍に徴用され島に残って戦死したのです。

 でも、そうした硫黄島で起きたことや祖父母世代の体験を、現代に生きる兄妹の目を通して描くという、よくあるわかりやすい語りを作者はとっていません。東京オリンピックが開催されている世界と、新型コロナウイルスが猛威をふるっている世界。2つの異なる世界線で、平と来未はスマホを通して死者と交信し、祖父や祖母の世代が経験した戦争を体感していくことになります。生者と死者が時空を超えて語り合うばかりか、時に両者の意識は混ざり合い、死者たちの記憶もまた他の死者のそれとシンクロしと、いくつもの語りのレイヤーを作り出す手際が自然すぎて、読んでいるうちに、そこで起きる不思議の数々を不思議と思わなくなっている自分に気づく。そんな稀有な体験にいざなってくれる語り口になっているんです。

 語り手は平、来未、皆子、忍にとどまりません。若き日のイク、イク亡き後の和美、達身、達身の親友・重ル、来未の高校生の時の同級生・秋山くんも語りに参戦。大勢の声がさまざまなトーンで聞こえてくるポリフォニックなこの物語からは、水平線の向こうにもある海、どこへだってつながっている海、その海が象徴する自由を希求した達身たち戦時下の若者の思いがビンビン伝わってきます。硫黄島のかつてと今の姿や、そこで起きたこと起きてほしかったこと、島の人々の生と死が渾然一体となって語られていく最終章は圧巻のひと言。あまりの素晴らしさに、トヨザキ落涙いたしました。

 〈簡単なもんじゃないけど、いったん通じてしまえば過去も未来も、生きるも死ぬも、人間てのは案外一緒くたにできちゃうんだ。死んだひとから電話も来るし、メールも届く。海を見てればあの世にもこの世にも漂う。過去にも未来にも行ける〉。それが『水平線』という作品です。

 小説における日本語として最高峰の表現を堪能できる本作を、作者本人の声を通して味わうことができる今回の朗読会。めったにない機会ですから、是非、青山まで聴きにいらしてください。

(文責・豊崎由美)

開催日時

2022年11月5日 土曜日 18時00分開演(17時45分開場)

安全を考慮し、ご参加者を20名(申し込み順)といたします。

場所はいつもの表参道の会場ではありません。密回避のため、広い会場を予定しています。

地下鉄表参道駅から5分の場所です。お申し込みの方には別途お知らせします。

感染状況の推移によっては、延期の可能性もあります。

 

youtube配信はありません。

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