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2022年7月23日 土曜日

佐藤究(さとう・きわむ)

 

1977年、福岡県福岡市生まれ。

2004年、「サージウスの死神」が第47回群像新人文学賞の優秀作に選ばれる。その後、「佐藤憲胤(さとう・のりかず)」名義で2冊の単行本を刊行。

2016年、「犬胤究(けんいん・きわむ)」の筆名で書いた『QJKJQ』が第62回江戸川乱歩賞を受賞。筆名を「佐藤究」に改名し、刊行された。

2018年、『Ank: a mirroring ape』で第20回大藪春彦賞、第39回吉川英治文学新人賞を受賞。

2021年、『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞受賞、第165回直木賞受賞

エンターテインメントと純文学のハイブリッド的な魅力を持つ作家は何人かいて、それぞれに魅力的な作品世界を構築していますが、佐藤究さんもその一人です。17年ぶり、史上2度目の山本周五郎賞と直木賞のダブル受賞で話題になった『テスカトリポカ』を読めば一目瞭然。この傑作を未読という方に、どんな小説なのかを説明しますと――。

 

 物語の発端は2013年、メキシコ北東部で勃発した二大麻薬カルテルの戦争。無辜の市民をも巻き込み、批判的なジャーナリストや作家を惨殺し、血で血を洗う凄まじい抗争の果てに、2015年、ロス・カサソラスを仕切っている4兄弟の皆殺しを、新興のドゴ・カルテル側がドローンを使った空爆で試みます。たった1人生き残った三男のバルミロは命からがら国外へと脱出。インドネシア共和国のジャカルタで、コブラの串焼きを出す移動式屋台のオーナーになり、〈調理師(エル・コシネーロ)〉と名乗る一方で裏では安い麻薬を客に売りさばき、虎視眈々と復活と復讐の時を狙う日々を送っていたんです。

 そこに裏稼業のほうの客として訪れるようになったのがタナカという偽名を使う末永充嗣。元々は優秀な心臓血管外科医だったのですが、コカイン常習による運転ミスで少年を轢き殺し、逮捕から逃れるために整形手術を受けてジャカルタへ。臓器売買のコーディネーターにまで身を落としていました。

 その2人が手を組み、元麻酔医で今は闇医師として麻薬売買や臓器売買に手を染めている野村健二も仲間に引き入れ、あるビッグビジネスを計画します。それは〈血の資本主義に輝くダイアモンド〉である心臓の売買。日本国内で、さまざまな事情から戸籍を持たない子供たちを保護の名目で連れ去り、生きたまま心臓を摘出し、6億円以上もの高値で心臓病の子供を持つ世界の大金持ちたちに売るんです。その企てを成功させるために、バルミロは故郷で失った〈家族〉を再構築。自ら人材をスカウトし、それぞれにスペイン語の呼び名を与え、〈おれたちは家族だ(ソモス・ファミリア)〉の号令のもと、忠実な部下に育てあげていきます。その最後の切り札ともいうべき存在が2メートルを超える巨漢の青年・土方コシモで――。

 アステカの戦士の末裔である祖母から神々の物語を刷り込まれ、敵対する者や裏切り者の心臓を生きたまま取り出しては究極の神テスカトリポカに捧げる儀式を行うバルミロの物語。

暴力団幹部の父親とメキシコ人の母親の間に生まれ、ネグレクトによって学校にもろくに通うことなく成長し、13歳で両親を殺して少年院に入所したコシモの物語。

両者の運命をダイナミックに合流させる過程で、その他の脇役に当たる人々の〈家族〉にならざるを得なかった半生も丁寧に描き、陰惨なシーンが頻出する物語全体にアステカ神話を響かせることで昏い聖性と文学性をまとわせる。時に詩的といってもいいほどの素晴らしい文章によって完成した見事なノワール小説になっているんです。

 とりわけコシモの人物造形が素晴らしいし、痛ましい。日本語が不自由だから友達もできず、バスケットを観るのが好きで高身長かつ運動神経も抜群にいいのに選手になるなんて夢を抱くこともしない。手先が器用で、いったんはカスタムナイフの職人のもと素質を開花させるのに、バルミロによって殺し屋にさせられてしまう。読み進めるほどに、心の中で「コシモ、自分のために生きて!」と声をかけっぱなし。一読忘れがたい、“生きた”キャラクターになっているんです。

 

 読み始めたらやめるのが困難なほどの豊かな物語性に、エンタメ小説ではめったにお目にかかれないような、こだわりの強い独特な文章表現が支える迫真の描写と絶妙な比喩が加わり、ジャンルを越境する文学作品に到達しているのが『テスカトリポカ』という小説なのです。

 その佐藤さんが、最新刊の短篇集『爆発処理班の遭遇したスピン』(講談社)をたずさえ、本の場所にやってきてくれます。インタビューではなく、(おそらくは初めての)朗読。創作秘話も明かしてくれるかもしれない、ファンにとってワクワクしかない90分になることは間違いありません。是非、佐藤さんの小説と声に出合いに来てください。

(文責・豊崎由美)

開催日時

2022年7月23日 土曜日 18時00分開演(17時45分開場)

安全を考慮し、ご参加者を20名(申し込み順)といたします。

場所はいつもの表参道の会場ではありません。密回避のため、広い会場を予定しています。

地下鉄表参道駅から5分の場所です。お申し込みの方には別途お知らせします。

感染状況の推移によっては、延期の可能性もあります。

 

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