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2022年5月28日 土曜日

四元康祐(よつもと・やすひろ)

1959年、大阪府生まれ

1991年、第一詩集『笑うバグ』(花神社)を刊行

2002年、詩集『世界中年会議』で第3回山本健吉文学賞と第5回駿河梅花文学賞を受賞

2004年、詩集『噤みの午後』(思潮社)で第11回萩原朔太郎賞を受賞

2013年、詩集『日本語の虜囚』(思潮社)で第4回鮎川信夫賞を受賞。

2015年、初の小説『偽詩人の世にも奇妙な栄光』(講談社)で第37回野間文芸新人賞の候補に

2019年、『前立腺歌日記』(講談社)で第41回野間文芸新人賞の候補に

1986年に製薬会社の駐在員としてアメリカに移住したのを皮切りに、ビジネスマンとして長く欧米暮らしを経験。1994年にはドイツに居を定め、現在は日本とミュンヘンを行き来。大学で教鞭を執りながら、世界各地の詩祭に参加している。

 

 フランスの小説家にして批評家のフィリップ・ソレルスが監修する叢書から出ている、2002年に邦訳されたジャン=リュック・エニグの『剽窃の弁明』(現代思潮新社)が示唆に富んでいます。〈いかなるテクストも別のテクストの痕跡に他ならず、ついには文字の起源にまで遡れること。剽窃はそうしたことを露わにしてくれる〉という確信のもと、古今東西の文学者の発言や作品を引きながら、パスティーシュや引用、模倣を含む「剽窃」の効用を解き明かすんです。

 さて。わたしが最初に出会った四元康祐は詩ではなく小説でした。『偽詩人の世にも奇妙な栄光』。

主人公は、中学2年生の時に教科書で中原中也に出会って以来、詩を愛し、古今東西の詩集を読み耽るようになった吉本昭洋。詩を愛しながらも己に詩作の才能がないことを自覚した彼は、大学卒業後は商社に入社し、ビジネスマンとして世界各国を渡り歩くようになります。そして32歳になったある日、出張先のニカラグアで詩祭に出くわし、詩と再会。興奮と喜びに包まれた彼は、以来、各地の詩祭を訪れるようになるんです。そんな3年間を過ごした後、ニカラグアで出会ったルーマニアの老詩人コンスタンツの英訳の詩をふと訳してみた昭洋は、〈そこに並んでいる日本語は、昭洋のものであってそうではなかった。コンスタンツのものであってそうではなかった。(略)まったく別のものだった。(略)キマイラのごとき言語の妖怪変化。だがそこにたしかに昭洋は詩を見出した。生まれて初めて、自分の筆の先から迸り出た詩〉であることを発見。海外で出会った無名の詩人の作品を訳し、そこにちょっとした言葉の〈メイク〉を施すことに夢中になっているうちはよかったのですが、10年ぶりに帰国して、ブック・カフェで行われていた即興詩のイベントに飛び入り参加した彼は、コンスタンツの詩を朗読してしまい、たちまち即興詩人としてスターダムを駆け上がることになるんです。が、しかし――。

 冒頭で紹介したエニグの評論にある〈剽窃は読書から生まれる。(略)書くという行為は賛嘆と剽窃への誘惑のうちに始まる〉つまり剽窃とは〈読むことと書くことの《中間地帯》なのだ〉を地でいく偽詩人の波乱の半生を描いたこのピカレスクロマンに惚れ込んだわたしは、すぐさま『笑うバグ』『世界中年会議』『噤みの午後』『ゴールデンアワー』から選ばれた詩にエッセイもついている『四元康祐詩集』(思潮社)を入手。読んで瞠目刮目。こんなに面白い詩人を知らないまま自分は21世紀を迎えてしまったのかと茫然自失。

 〈窓の中に夕焼けが広がり円盤は銀色に輝いている/その前景に部長の寂しげな毛髪がススキのように被さり部長の前に直立する新入社員の眼は驚愕に見開かれている〉という詩句を皮切りに、窓に背を向け新入社員に怒号を浴びせている部長と、窓の向こうの円盤に呆然としている新入社員、円盤に気づいた部長以外の社員の様子を描く「部長と円盤」といった会社をネタにした詩に笑い、「天才バカボン」や「名犬ラッシー」といった昭和の子供が愛した作品を下敷きにした詩に郷愁を覚え、ランボーや中原中也、ジョン・キーツなど詩人への愛着を謳う詩に粛然となる。具体的な名詞を多々織り込む四元さんの作品は、わたしを「わかる」と「わからない」、「具体」と「抽象」、「感情」と「知性」の間を行ったり来たりさせてくれる、つまり刺激的な詩だったんです。

 数々の詩祭をはじめとするポエトリー・リーディングの場で詩を朗読してきた四元さんが、「本の場所」でどんな詩をどんな風に朗読してくださるか、わたしが一番楽しみにしています(できれば初期作からも選んでほしいなあという希望を抱きつつ)。まだ詩に出会っていない方にこそ熱烈推薦したい、今回の朗読会なのです。(文責・豊崎由美)

開催日時

2022年5月28日 土曜日 18時00分開演(17時45分開場)

安全を考慮し、ご参加者を20名(申し込み順)といたします。

場所はいつもの表参道の会場ではありません。密回避のため、広い会場を予定しています。

地下鉄表参道駅から5分の場所です。お申し込みの方には別途お知らせします。

感染状況の推移によっては、延期の可能性もあります。

 

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お知らせ

多数の予約お申込みをいただきました。

予約受付を締め切らせていただきます。

ありがとうございました。